情報漏えい対応の現場から|第13回
派遣社員の情報が漏れたとき――派遣先と派遣元、誰が説明するのか
雇用関係、情報の保有、説明と窓口の分担を分けて考える
この記事で整理すること

派遣先からは「派遣元へ聞いてください」、派遣元からは「就業先で起きた事故なので分かりません」。本人が同じ説明を繰り返しても、必要な回答に届かないことがあります。両社が同時に連絡した結果、対象情報や今後の案内が食い違う場合にも備えたいところです。
派遣社員の雇用主という理由だけで、事故の通知・説明の担当は決まりません。両社が保有・取り扱う情報、事故が起きた業務、法令と契約の関係を確認し、事実確認・判断・本人への連絡の担当を定めます。窓口を一本化しても、各社が確認し説明すべき内容まで一方へ移るわけではありません。
最初に押さえる3つのこと
- 雇用と情報の関係を分ける雇用主、情報の保有者、事故の調査担当は同じとは限りません。
- 共通部分と各社の説明をそろえる一方の発表をそのまま転送せず、自社が確認した範囲を明確にします。
- 本人へ戻す担当を決める窓口一本化でも、確認担当・回答承認・次回連絡を残します。
1.雇用主と、事故に関する説明の主体を同一視しない
労働者派遣は、派遣元に雇用される労働者が、派遣先の指揮命令の下で働く仕組みです。この関係は出発点ですが、それだけで漏えい事故の通知主体までは決まりません。[1]
まず、どちらが何の情報を取り扱っていたかを確かめます。派遣元には登録・雇用・給与等の情報、派遣先には就業管理・入館等の情報があると考えられますが、実際の項目と保有状況は契約や業務で異なります。「派遣社員の情報一式」とまとめず、事故の対象になった情報を一つずつ区別します。
派遣契約という名称だけで、個人データの取扱いの委託関係が成立すると判断するのも避けます。独立した利用、第三者提供、個人データの取扱いの委託など、当該情報の流れを個人情報管理担当・法務が確認します。委託に該当する場合の報告・通知の分担は、PPCが示す要件と併せて検討します。[4]
両社の担当者が最初にそろえるのは、「どちらが悪いか」という結論ではなく、事案の識別情報、判明時点、対象の情報と期間、担当責任者、次の確認予定です。責任や費用の協議が残っていても、必要な事実確認と本人への案内準備を止めない体制を置きます。
2.両社が持つ情報と、事故が起きた場所を対応付ける
システムの所有者と、対象情報を確認できる人を分けて記録します。外部の勤怠サービス等が関係する場合も、誰がサービスを契約し、どちらの会社のどの情報を保存していたかを確認します。
派遣元
雇用関係。自社の保有情報・連絡先・雇用上の対応を確認。
派遣先
就業上の指揮命令。自社の業務・システム・対象情報を確認。
本人と各社の関係を示す図です。全情報の相互共有や、一方への法的責任の移転を示すものではありません。
- 業務・情報項目
- 登録、給与、評価、勤怠、健康、入館記録等を分ける。同じ人に関係していても、全項目が両社にあるとは考えない。
- 事故の場所・確認者
- どの組織のどのシステム・作業か、誰がアクセスや対象範囲を調査できるかを記録する。
- 情報の移動
- 両社間、外部サービス、再委託先への流れと、提供・委託の根拠、利用目的、閲覧権限を確認する。
勤怠ファイルに健康上の事情が記載されているなど、項目名だけでは内容が分からないことがあります。原資料を確認する担当を限定し、連絡用の一覧には必要な範囲だけを反映します。派遣先にマイナンバー等の不要な情報が含まれていないかも、必要があれば権限者が確認し、通常の共有一覧へ転記しません。
3.法律・契約・実務の役割を、三つの欄で決める
担当の押し付け合いを避けるには、法令上の義務、契約上の約束、本人対応の実行を分けて合意します。契約で窓口を決めたことだけで、法令上の義務が消えると説明しません。
- 法律上の役割
- 個人データの取扱いと事案に基づき、報告・本人通知、情報共有等の要件を各社が確認する。個別の適用は情報管理・法務の判断とする。
- 契約上の役割
- 派遣契約、秘密保持、個人情報取扱い、事故連絡条項、外部サービス契約を確認する。連絡期限、協力範囲、再委託等の条件を把握する。
- 実務上の役割
- 対象照合、文面準備、承認、連絡、問い合わせ、未回答管理を割り当てる。主担当と不在時の代替担当を明らかにする。
報告対象の委託データ事故では、委託元・委託先の双方の義務を原則に、所定の通知による委託先の義務免除等の条件を検討します。この整理を、委託と確認していない派遣元・派遣先の関係へ自動適用しません。実際の担当と法的な義務主体が異なる場合も、通知内容と実施状況を義務主体が把握できるようにします。[4]
派遣元責任者・派遣先責任者には、本人と日常接点のある担当を支え、両社の確認先をつなぐ役割を置きます。ただし、派遣管理の担当者に技術調査や法的判断をすべて求めません。それぞれの会社の事故対応責任者と情報管理部門へ、具体的な確認事項を引き受けてもらいます。
4.共通の説明と、各社が確かめたことを分ける
説明をそろえることは、両社が同じ文章を無条件に使うことではありません。共通して確認した概要と、自社の対象情報・対応状況を分け、根拠と確認時点を添えます。
本人への案内では、どの会社からの説明か、対象となる情報、判明していること、未確認事項、本人が取れる対応、次の連絡先を明確にします。一方が保有していない情報まで「漏れていません」と否定したり、相手の発表にないことを補って断定したりしません。
実際の連絡体制を用意してから使う文例です。「派遣元へ聞いてください」と送り返すだけにせず、本人が説明を繰り返さなくてよいよう、共有可能な受付要約と照会事項を渡します。同意や提供根拠の確認が必要な情報は、先に扱いを決めます。
両社の説明が食い違ったら、同じ対象期間・情報・調査範囲の話なのかを確認します。単なる更新時刻の差か、判断の不一致かを記録し、承認者がそろえるまでは窓口の推測で一本化しません。既に異なる説明をした相手への訂正・追加案内も、回答履歴から確認します。
5.窓口を一つにしても、確認と承認は会社別に残す
窓口の一本化は、本人の負担を減らす運用案です。何をその窓口で答え、どの会社へ確認し、誰の承認で回答するかを決めて初めて機能します。
派遣元への確認
自社の事実・方針・雇用関係の回答を承認
派遣先への確認
自社の事実・方針・就業先の対応を承認
共通受付は各社の義務・判断権限を引き受ける制度ではありません。個人情報を共有する条件は別に確認します。
電話・メールの回答庫には、共通回答と会社別回答、適用する対象・期間、根拠、承認者、版と適用時刻を付けます。回答待ちは照会先、引受け、確認期限、本人への連絡予定を分けて管理します。相手へメールを送った時点では、担当の引受けも回答も終わっていません。
派遣元指針・派遣先指針は、苦情を受ける担当、処理方法、両社の連携や記録、不利益取扱いの禁止を定めています。事故対応用の受付記録を、派遣管理上必要な記録へどう反映するかも確認します。法定の台帳と本記事の運用項目は同じものではありません。[2][3]
夜間や休日は通常担当につながらないことがあります。緊急の案内、承認済みで答えられる範囲、代替担当、本人へ状況だけでも連絡する役割を定めます。未確認の原因や補償を、その場の安心材料として約束しないようにします。
7.派遣終了や複数の派遣元があっても、残件を引き継ぐ
派遣契約・就業の終了は、事故に関する連絡が完了したことを意味しません。派遣先のアカウント停止、担当者交代、派遣元との雇用継続の有無を確認し、次の連絡方法を決めます。派遣終了と退職を同じ状態にまとめません。
派遣元が複数ある場合は、会社ごとに対象情報、確認担当、通知主体・実行担当、回答の版、未回答と期限を区分します。共通会議の資料へ全社の対象者名簿を載せず、各社へ必要な部分だけを返せるようにします。本人がどの派遣元のどの就業期間に該当するか確認できないときは、本人に調整を丸投げせず、所定の照合担当へ戻します。
進捗報告では、「派遣元へ連絡済み」と「本人へ連絡済み」を分けます。対象数が変わった場合は追加・除外の理由と版を記録し、すでに出した説明へ影響がないかを確認します。主担当が引き受けない案件は、両社の責任者へ期限付きの確認事項として上げます。
終了時は、必要な本人対応、未回答・未達、追加説明の見込み、残る雇用・就業上の相談、記録の保管・返却・削除を確認します。問い合わせから分かった説明不足は、次の契約時の連絡条項、窓口の回答権限、担当交代の手順へ反映します。なお、指針の2026年10月1日適用の改正も確認していますが、その待遇関係の見直しを漏えい通知の担当を一律に決める規定とは扱いません。[5]
8.実務チェックと、よくある質問
避けたい対応
雇用主だから全部通知する、と決める
保有情報と事故、法令・契約の関係を確認できていません。
相手会社へ転送して受付を閉じる
確認の引受けと、本人へ回答する仕事が残ります。
協力のため全資料を渡す
他社・他の対象者の情報や不要な詳細を広めるおそれがあります。
両社の確認と本人への回答をつなぐ6項目
- 雇用関係と情報保有・取扱いの関係を分け、事故の対象を確認している。
- 法律・契約・実務の担当と、各社の判断責任者を区別している。
- 共通事実と会社別の説明に、根拠・確認時点・承認者が付いている。
- 窓口を一本化しても、照会の引受けと本人への連絡担当を追える。
- 共有範囲を限定し、本人が不利益を心配せず相談できる経路を考えている。
- 派遣終了・担当交代・複数派遣元にまたがる未達・未回答を引き継げる。
必ず派遣元が、本人へ通知するのでしょうか?
必ずとはいえません。雇用主だけでなく、各社が取り扱う情報、事故の内容、委託等の関係と法令・契約を確認します。通知の義務主体と、実際の連絡担当を区別して決めます。
窓口を一つにすれば、もう一方の会社は対応不要ですか?
窓口の一本化と各社の義務・確認は別です。共通窓口で答えられる範囲、会社別の照会先、回答承認と更新、本人への戻しを決め、双方が自社の対応状況を把握できるようにします。
派遣元へ、派遣先の事故報告書をそのまま渡してよいですか?
一律には判断できません。提供の目的・根拠、契約、秘密保持、含まれる個人情報や他社情報を確認します。必要な項目に絞った共有用の説明と、限定した担当者が扱う原資料を分けます。
すでに派遣が終わった人への対応は終了できますか?
派遣終了だけで完了とはしません。本人の対象情報、必要な連絡、未回答、使える連絡経路と担当を確認します。派遣先のアカウント停止前後でも、両社間の照会と本人への案内を引き継ぎます。
派遣元・派遣先の間で仕事を分けても、本人への回答は途切れさせないことが大切です。各社の確認と承認を、共通の記録と次回連絡につないで管理します。
派遣元・派遣先をまたぐ説明と窓口運用を支援します
サンクネットは、会社別の対象整理、説明資料・FAQ・スクリプト、電話・メールの受付、両社への確認、回答履歴・未回答、集計・定期報告などを支援します。一つの受付から必要な確認担当へつなぎ、承認結果を本人への回答へ戻す運用を整えます。法的な通知主体、労務上の判断、責任・補償の結論は、各社の責任者や専門家が確認します。
必要な仕事や対象範囲を整理しきれていない段階でも、差し支えない概要からお知らせください。
企業・団体の担当者、専門家・支援会社向けの相談先です。個別事故の対象者確認・被害申告は、その事故の専用窓口へご連絡ください。初回の相談では、対象者名簿・本人確認書類・事故の原資料・認証情報等を送らず、概要のみをお知らせください。即時対応・受託・補償を保証するものではありません。
相談ナビの利用は任意です。利用せずに直接相談できます。
この記事への質問・今後のテーマ要望を送る記事質問は一般的な疑問・テーマ要望の窓口です。個別事故の緊急相談や、対象者からの被害申告の受付とは異なります。
情報漏えい対応支援サービスを見る相談ナビからの下書き引継ぎについて
相談ナビで整理した内容は、ご本人が確認して操作した場合に限り、正式相談フォームの概要欄へ一時的な下書きとして引き継げます。内容はフォーム上で編集・削除でき、連絡先や同意等は自動入力されません。フォームが自動送信されることはなく、ナビを使わず直接相談することもできます。
参考資料・確認範囲
制度・参考資料確認日:2026年11月7日。法令上の制度、公的な注意・推奨、記事の実務運用案、個別判断を区別しています。管理項目・図解・文例は法定様式ではありません。主に民間部門の一般的実務を対象とし、番号法、業法、海外法令等は別途確認します。改正法の成立・公布と施行、改正案の意見募集を区別し、施行前の内容を現行の義務として適用していません。
- 厚生労働省 法令等データベース「労働者派遣法」
第2条(定義)、第24条の3・4(個人情報・秘密)、第36条・第41条(責任者)、第40条(派遣先)。
雇用・指揮命令の関係と役割。漏えい通知主体を雇用主だけで決める規定ではない。 - 厚生労働省「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」
第二の三(苦情処理)、五(連絡体制)、十一(個人情報等の保護)。
本人同意・他法令による例外も含め、提供・使用の条件を確認。事故資料全体を共有する許可ではない。 - 厚生労働省「派遣先が講ずべき措置に関する指針」
第二の七(適切な苦情の処理):体制、説明、管理台帳・通知、不利益取扱いの禁止等。
法令上の台帳記載と本記事の任意の進捗項目を区別。事故の責任・補償は個別判断。 - 個人情報保護委員会「ガイドライン(通則編)」
3-1・3-2(利用目的等)、3-4(安全管理・委託先監督)、3-5(漏えい等報告・本人通知)、3-8(開示等)
主に民間部門。報告対象と本人通知の条件を省略しない。番号法・業法・海外法は別途。 - 厚生労働省「労働者派遣法施行規則等の一部改正の公布等について」(2026年4月28日)
第3(派遣元指針)、第4(派遣先指針)、適用期日2026年10月1日。
待遇・評価等の改正を、漏えい時の通知主体を一律に決める制度と読み替えない。
