情報漏えい対応の現場から|二次被害の申告受付
漏えい後に「不審なメールが来た」と言われたら
二次被害申告の受け方と、確認・回答の進め方
まず安全を確かめる。
関連性は、分けて確認する。

事故公表の後、窓口に「最近、不審なメールが増えた」「あなたの会社から情報が漏れたせいではないか」という連絡が届くことがあります。関連が分からないから受け付けないのも、その場で自社の事故による被害と認めるのも、適切な受付とはいえません。
まず被害が進んでいないかを確かめ、申告を記録します。そのうえで、確認できた事実と事故との関連性を分け、判断担当へつなぎ、本人への連絡まで管理する。本記事では、この一連の実務を整理します。
最初に押さえる3つのこと
- 関連が不明でも受け付ける申告の受付と、原因・補償の判断を分けます。
- 緊急の案内を後回しにしない入力・送金などの状況を確認し、必要な公式窓口へ案内します。
- 引き継いだ後まで追う担当者、確認事項、次回連絡、回答状況を残します。
企業・団体の事故対応担当者、問い合わせ窓口の責任者向けです。本記事の「二次被害の申告」には、事故との関連がまだ確認できていない不審メール、なりすまし、不正利用などの申し出も含めます。受付の運用を整理するための呼び方であり、すべてを事故による被害と認定するものではありません。手順・文例は運用案、例示は特定の実案件に基づかない想定例です。
1.受付で最初に確かめるのは、原因より緊急性
最初から「今回の事故との関係は証明できますか」と尋ねると、今必要な案内が遅れてしまいます。まずは、受信しただけなのか、リンクを開いたのか、情報を入力・送信したのか、支払いや被害が進んでいるのかを確認します。
入力・送信・実行をした
何をしたかを確認しますが、入力したパスワード等そのものは聞きません。認証情報やカード情報を入力した場合は、公式経路での変更やサービス提供元への連絡を案内します。[2]
これは受付を整理する目安で、厳密な診断表ではありません。リンクを開いただけでも、アプリの導入や添付の実行などがないかを確認し、「入力していないから安全」と決めつけないでください。端末への対処は情報システム担当や専門窓口へつなぎます。
連絡先は、不審なメッセージ内の情報を使わず、組織側で確認した公式案内から示します。金融機関等への連絡を案内した後も、自社への申告を記録し、必要な確認を続けることは別の仕事です。
警察への案内では、事件・事故の緊急通報は110番、緊急ではない相談は最寄りの警察署や#9110と区別します。窓口で原因や補償の結論を出す前でも、本人の安全に関わる連絡を妨げないようにします。[6]
2.「申告」「確認できた事実」「事故との関連」を分ける
「公表の翌日から届いた」「自分の名前が書かれていた」という情報は、調べる手掛かりにはなります。しかし、それだけで今回の事故が原因と結論づけることはできません。逆に、因果関係が未確認という理由だけで申し出を捨てないことも大切です。
本人の申告
「公表後に、氏名入りの不審メールを受け取った」と話している。
確認できた事実
承認済みの方法で受領した資料に、氏名と受信日時の表示がある。送信者の真正性は未確認。
事故との関連
今回の漏えい情報が利用されたかは未確認。調査担当に照会中。
最初は「本人がそう説明した」という記録しかなくても構いません。担当者が資料を確認した後は、何を、誰が、いつ確認したかを追記します。申告を事実に書き換えたり、以前の記録を消したりせず、確認の経過が分かる形にします。
申告の受付は、原因や補償を決める場ではありません。「申し出を受け止めること」と「会社として責任・補償を判断すること」を、手順と回答文で分けてください。
3.聞き取りは、必要な6点から始める
詳しく聞くほどよいわけではありません。緊急性の判断と、次の担当者が確認するために必要な項目から聞きます。次の6点は、受付票を作る際のたたき台です。
- ① いつ、どの経路で届いたか
- 受信・発生日時、メール・SMS・電話等の別。覚えていない部分は未確認と残します。
- ② 何を求められたか
- 名乗った相手、支払い・ログイン・認証情報の入力などの要求。本文全文をその場で読み上げてもらう必要はありません。
- ③ 本人がどこまで操作したか
- リンクを開いた、情報を入力した、添付を実行した、アプリを入れた、送金した等を区別します。
- ④ どのような被害・危険があるか
- 身に覚えのない利用、利用停止・ログイン不能、継続する請求や脅迫。金額の大小だけで緊急性を決めません。
- ⑤ 既に何をしたか
- 金融機関等への連絡、認証情報の変更、警察相談など。まだ取れていない対応も確認します。
- ⑥ どの方法で再連絡できるか
- 本人が安全に受け取れる連絡先・時間帯、希望する配慮。資料がある場合は、まず所在と種類だけを確認します。
「どうして開いたのですか」と責めず、操作の順番を落ち着いて確認します。本人が混乱している場合は、緊急案内に必要な事項を先に聞き、残りを後で確認することもできます。
一般的な安全案内と、個人別の漏えい対象照会は手順を分けます。匿名の情報提供も内容を記録できますが、その相手に個別の対象有無や保有情報を伝えることはできません。家族・代理人からの連絡も、受付と個別回答の条件を分けます。
4.窓口が答えることと、上席が決めること
窓口では、承認済みの安全案内、受付内容、次の確認先を説明します。「当社の事故が原因です」「当社とは無関係です」「必ず補償します」といった結論は、その場で出さない設計にします。
- 受付担当
- 緊急性の確認、申告の記録、承認済みの案内。判断が必要な点と未確認事項を明記する。
- 上席・窓口責任者
- 緊急連絡と引継ぎ、担当の引受け、次回連絡予定を管理する。受付記録を確認し、伝達漏れを防ぐ。
- 事故対応責任者・調査担当
- 事故情報との照合、新たな漏えい範囲や不正利用の手掛かりを調べ、対応方針を整理する。
- 法務・個人情報管理担当等
- 補償・責任、資料の取得や外部共有、追加通知・報告等を確認し、対外回答の承認につなぐ。
役割分担の例です。小規模な組織では兼務しても構いませんが、誰が引き受け、誰が承認するかを曖昧にしないことが重要です。
進行中の金銭被害や脅迫に加え、公開していない情報を相手が知っている、新しい対象範囲が疑われる、といった申告は通常の集計待ちにしません。時間外の連絡先、応答がない場合の代替担当も決めておきます。
本人への回答までを管理する
- 受け付ける緊急性・申告
- 引き受ける担当と確認事項
- 確かめる資料・関連性
- 承認する回答・次の対応
- 連絡する本人への案内
緊急の安全案内は、この流れの完了を待たずに並行して行います。調査中でも、約束した連絡を止めません。
メールを転送した時点では、引継ぎは完了していません。受け手が対応を引き受けたことを確認し、窓口の誰が本人へ戻すのかまで決めます。
5.原因を断定せず、不安に応える回答例
「関連は分かりません」だけでは、本人は何をしてもらえるのか分かりません。受け止めた内容、今の確認状態、次の動きを短く伝えます。
これらは、受付と引継ぎ体制を用意した場合の文例です。「担当から連絡します」と伝える前に担当を決め、実行できる連絡日時・方法を確認してください。調査結果がまだ出なくても、確認したことと残っていることを伝えます。
本人の希望が「原因を知りたい」「今の被害を止めたい」「費用を相談したい」のどれなのかも確認します。すべてを一度に解決できなくても、別の確認先が必要な点を説明することで、同じ話を何度もしてもらう負担を減らせます。
6.記録を残すほど、情報の扱いにも注意する
受付記録には、受付番号、日時・経路、申告内容、確認済み事項、事故との関連の確認状態、緊急性、案内した内容、引継ぎ先、次回連絡予定を残します。一般的な案内だけで終わる場合は、不要な連絡先まで集めません。
資料は「全部転送してください」で集めない
調査にメール原本や画面が必要な場合は、必要な範囲、受領経路、閲覧者、保管先を担当者が決めます。本人に不審なリンクを開き直してもらったり、受付担当者が添付を直接実行したりしないでください。原本と、共有のために不要部分を伏せた資料は、用途を分けて管理します。
パスワード、暗証番号、認証コード、カード番号の全桁を聞き取る設計にはしません。想定外に受領した場合は、そのまま転送せず、個人情報管理担当へ扱いを確認します。健康状態や犯罪被害などの詳細が含まれる資料も、取得・共有の条件を確認します。[3]
連絡方法で、新たな開示を起こさない
勤務先への電話、家族への伝言、共有メールへの返信が安全とは限りません。折り返し時の名乗り方や伝言の可否を確認し、日本語での説明や電話でのやり取りが難しい場合は、利用可能な別の方法を案内します。
日次報告には個人情報の全文を貼らず、要約・件数・受付番号を基本にし、詳細は必要な担当者だけが参照できる形にします。記録を未承認の生成AIや私用の共有サービスへ入力しません。保存期間や削除は組織の方針に従い、調査等で保存が必要なものを受付担当の判断で消さない運用にします。[3]
7.申告を、FAQ・注意喚起・報告へ戻す
二次被害の申告を受ける目的は、受付件数を数えるだけではありません。新たな注意喚起が必要か、過去の案内を変えるべきか、調査範囲を見直すべきかを判断できるようにすることです。
集計では、延べ受付件数、把握できる範囲での申告者数、入力・不正利用等の申告、緊急連携、未回答・期限超過を分けます。「申告があった人数」と「今回の事故による被害が確認された人数」は同じではありません。同じ人の追加連絡や重複が分からない場合は、その限界も明記します。
一件でも重大な申告は至急共有します。類似の申告が続く場合も、本人が入力した項目、届いた文面の特徴等を必要な範囲でまとめ、調査・広報・法務へ渡します。多いという理由だけで因果関係を確定させないでください。
FAQや公表で「二次被害は確認されていません」と伝えていた場合は、その表現が「申告はない」のか「申告はあるが関連は未確認」なのか、現状と一致するかを確認します。変更する際は確認時点・根拠・承認者を残し、電話、メール、公開ページの案内をそろえます。
制度上の補足:二次被害の情報は、報告判断にも関係します
窓口の縮小・終了時も、未回答、再連絡、調査中の申告を残したままにせず、次の担当・連絡先・記録の保管先を決めます。受付の完了と、調査や本人への回答の完了は分けて管理します。
8.実務チェックと、よくある質問
避けたい3つの対応
「証拠がないので受け付けません」
受付段階で本人へ関連性の証明を求め、緊急の申告を取りこぼす。
「当社がすべて補償します」
確認・承認のない約束をしてしまう。
「担当へ転送したので完了です」
担当の引受けと、本人への連絡が残っている。
6つの実務チェック
- 関連性の結論より先に、進行中の被害・危険を確認できる。
- 申告・確認事実・事故との関連を別々に記録できる。
- 秘密情報を聞かず、必要な資料を安全に受領できる。
- 上席の引受け、時間外の代替担当を確認できる。
- 本人への次回連絡と、回答が済んだかを追える。
- FAQ・通知・報告の見直しに、申告の内容を戻せる。
事故との関係が不明でも、申告を受け付けますか?
関連が未確認でも受け付ける運用にします。本人の申告、確認できた事実、事故との関連を分けて記録し、緊急性に応じて担当へつなぎます。受付と、原因・補償を判断する手続きは別です。
メールに氏名や利用情報があれば、今回の漏えいが原因ですか?
それだけでは断定できません。調査の手掛かりとして記録し、漏えいした可能性のある項目、時期、その他の資料を担当者が照合します。窓口で「原因です」「無関係です」と結論を出さないようにします。
証拠として、メールや身分証をすべて送ってもらうべきですか?
一律には求めません。必要な資料と目的、安全な受領方法を先に決め、不要な情報を増やさないようにします。一般案内と個別照会の本人確認も区別し、不審な添付等を受付担当が直接開く手順にはしません。
警察や金融機関を案内したら、自社の対応は終了ですか?
外部窓口の案内と、自社への申告の確認は別です。案内内容、社内担当、次回連絡、本人への回答状況を記録します。外部の手続きの進捗や補償結果は、自社で確認できていない限り断定しません。
二次被害の申告では、原因を急いで決めることより、本人を必要な対応につなぎ、確認と回答を止めないことが大切です。窓口、調査、法務、広報の間を、担当・記録・次回連絡でつないでください。
二次被害の申告受付や、確認待ちの管理をご相談ください
サンクネットは、電話・メール等の問い合わせ窓口、FAQ・回答スクリプト、対応履歴、確認待ち案件の管理、集計・報告などの実務を支援します。原因・法的責任・補償等の判断は、企業の責任者や専門家が担う領域と分けて進めます。[5]
「申告は届いているが、誰に何を確認すればよいか整理できていない」という段階から、分かっている概要とお困りの業務をお知らせください。
企業・団体のご担当者、顧客・関係先から相談を受けた専門家・支援会社向けです。個別事故の対象者確認・被害申告は、その事故の専用窓口へご連絡ください。最初の相談では対象者名簿・本人確認書類・不審メール原本・認証情報等を送らず、概要のみをお知らせください。即時対応・受託・補償を保証するものではありません。
記事への質問フォームは一般的な疑問・テーマ要望の窓口です。個別事案の緊急対応や被害申告の受付とは異なります。
参考資料・確認範囲
制度・参考資料確認日:2026年10月28日。一般的な実務整理であり、個別事案の法的判断を示すものではありません。運用案・想定例は本記事の編集上の提案です。
- 警察庁「フィッシング対策」:被害時の相談先、公式経路の利用、なりすましへの注意。
- 国民生活センター「通販サイト、カード会社、宅配便事業者などをかたる偽SMS・メールに警戒を!」:情報入力後の対処、事業者への連絡等。
- 個人情報保護委員会「ガイドライン(通則編)」:安全管理、要配慮個人情報、漏えい等報告・本人通知。二次被害等の報告事項。
- 個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」:報告・本人通知の確認先。
- 株式会社サンクネット「個人情報漏洩対応支援サービス」:提供する実務支援の範囲。
- 警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」:110番と、緊急でない相談の#9110・最寄り警察署の区別。
