情報漏えい対応の現場から|初動の体制
情報漏えいが起きた。最初の24時間に何を決めるのか
解決を急ぐ前に、確認・判断・連絡が動く体制をつくる
確認する仕事を、止めない

「外部から不正アクセスを指摘された」「委託先で事故が起きた」。最初の連絡は、人数も原因もそろっていないことがあります。その段階で、何から手を付ければよいのでしょうか。
最初に決めるのは、誰が事実を確認し、誰が判断し、誰が本人や関係者へ連絡するかです。調査の終了を待つ仕事と、今から始める仕事を分け、対応が止まらない状態をつくります。
最初に押さえる3つのこと
- 責任者と担当を置く確認・判断・実行を分け、不在時の連絡先まで決める。
- 必要な仕事を並行する拡大防止、調査、報告・通知判断、受付準備をつなぐ。
- 未解決の仕事を残せる形にする根拠、確認先、次の予定と連絡相手を記録する。
1.最初の24時間は、解決の期限ではなく着手の目安
最初に整えるのは、原因の最終報告書ではなく、判断と作業を引き受ける体制です。原因、人数、情報項目がすべて判明するまで社内共有を待つと、その間の対応を誰も決められなくなります。
ここでいう「24時間」は初動を考えるための編集上の目安です。24時間以内にすべてを解決するという意味でも、24時間は様子を見てよいという意味でもありません。必要な報告や被害の拡大防止は、事態に応じて先に進めます。
個人情報保護委員会の通則編では、漏えい等やそのおそれが発覚した場合、責任ある立場の者への報告、被害の拡大防止、調査、影響範囲の特定など、事案に応じた措置が求められています。以下は、その必要な仕事を担当者へ割り当てるための運用案です。[1]
「漏えいなのかまだ分からない」という段階も、連絡を受けた時刻、情報源、疑われる業務を残して責任者へ渡します。事故と断定して全社へ広めることと、限られた担当で確認を始めることは別です。
2.責任者を決め、確認・判断・作業を分ける
誰が詳しいかだけでなく、誰が決められるかを確認します。システム担当に連絡しただけでは、事業停止、追加費用、本人への説明などの判断担当まで決まったことにはなりません。
事故対応責任者は、事実を持つ部署、技術調査、法務・個人情報管理、広報・本人対応の窓口をつなぎます。少人数の会社では兼務して構いません。担当者名に加え、連絡手段、不在時の代替者、任されている判断範囲をそろえます。役割の名称は各社の規程に合わせてください。
図1 最初の共有から、五つの仕事を並行して動かす
事実の基準、担当、次の確認時点をそろえる
止める範囲と残す記録
情報・期間・対象候補
要件、期限、必要な案内
答えられる事実と確認先
未処理と次の連絡
仕事の分担例であり、法定の組織図・実施順序ではありません。調査の終了を、通知判断や受付準備の開始条件にしません。
外部の弁護士や調査会社へ依頼した場合も、会社側で回答を受け取り、判断する担当を残します。専門家への相談を依頼した人と、問い合わせる本人へ結果を説明する人が同じとは限りません。
会議が開けない場合は、まず利用できる安全な連絡経路で担当を割り当てます。「全員がそろってから決める」ために、連絡も拡大防止も止まる状態を避けます。
3.被害の拡大を止めながら、調べるための記録を守る
「止めること」と「残すこと」を、技術担当と同時に確認します。不審な通信、外部公開の設定、誤った宛先への送信など、事故の入口によって必要な初期対応は異なります。一律に「全部停止」「全部削除」と指示するのではなく、影響する業務と安全面も含めて判断します。
不正アクセス等では、社内手順に従ったネットワークからの隔離などが拡大防止の例です。一方、独断での初期化、再インストール、メールやログの削除は、調査に必要な情報を失うおそれがあります。証拠保全を考慮した初動と外部専門組織への相談は、IPAの実践資料でも示されています。[2][3]
窓口担当が端末の電源操作や復旧方法を決める必要はありません。何が起き、誰が、いつ、どの操作をしたかを技術担当へ伝えます。業務システムが使えなくなった場合は、事故対応の連絡や受付まで同時に止まらないよう、承認された代替経路を用意します。
誤送信や誤公開でも、設定を直したことと、過去に閲覧・取得されたかを確認することは別です。回収依頼や公開停止の実施記録を残し、実施した対策だけを理由に「影響なし」と結論づけないようにします。
4.最初の記録は、分かることと分からないことを分ける
最初の記録は不完全でも構いません。ただし、推測で空欄を埋めないことが重要です。専用の管理システム等で、事案の識別情報、受領日時、情報源、確認済みの事実、未確認事項、担当、次の確認予定を結び付けます。
- 発生・発見・社内共有の時刻
- いつ起きたか不明なら、不明のまま残します。連絡を受けた時刻を発生時刻へ置き換えません。
- 確認した資料と範囲
- 委託先の連絡、操作記録、調査担当の報告など。口頭の説明と資料で確認した事項を区別します。
- 対象になり得る情報
- 顧客・従業員等の別、情報項目、期間、添付や自由記述の有無。データ件数と人数を混ぜません。
- まだ決められない仕事
- 不足している情報、確認先、次に見直す時点を残します。「調査中」だけで済ませません。
想定例として、委託先から「問い合わせサービスの一部に影響の可能性」と連絡が来た場面を考えます。この時点で記録できるのは、連絡内容と受領日時、自社の利用状況です。「自社の全顧客情報が流出した」とは書けません。逆に、自社への影響が未判明だからといって、通知や窓口を判断する担当への共有を待つ理由にもなりません。
委託先には、対象サービス・期間、自社データとの関係、追加情報の予定、照合を受ける連絡先を確認します。委託先事故固有の役割分担は、公開済みの委託先事故の記事で扱っています。
資料は事故対応に必要な担当へ限定して共有します。大量の名簿を全員のメールへ添付したり、未承認の生成AIに調査資料を入力したりせず、原資料の保存場所と必要な要約を分けます。
5.報告・本人通知・公表・関係先説明を別々に判断する
「外へ知らせるか」という一つの議題にまとめないでください。行政への報告、情報の対象となる本人への通知、一般向けの公表、取引先等への説明は、相手と目的が異なります。それぞれ判断担当、確認する要件、必要な情報、期限・連絡予定を記録します。
報告対象の確認では、情報の性質、事故の内容、本人の数等を見ます。確実な流出の証拠が得られた場合だけを対象にするものではありません。報告担当は、確定している情報と、漏えい等のおそれを判断する情報を分けて確認してください。[1]
補足:24時間という目安と、制度上の期限は別です
報告対象事態の速報は、知った後速やかに行い、目安は概ね3~5日以内です。確報は原則30日以内、不正目的の行為による類型は60日以内です。速報は、その時点で把握している内容を報告する仕組みであり、調査の完成を待つ日数ではありません。[1][4]
法人の起算点は、原則としていずれかの部署が報告対象事態を知った時点が基準です。個別の判断が必要ですが、社長への報告日や正式調査書の受領日だけを基準にしません。不正な持ち出しをした従業者等の認識については別の留意点があります。[2]
本人通知の時期は、報告期限とは別に、把握できた内容や本人の利益、通知による弊害等を踏まえて判断します。業法、マイナンバー、海外法令、契約が関係する場合は別途確認が必要です。
「判断保留」は作業の終了ではありません。例えば対象照合の回答を待つなら、照合担当と次の連絡予定を決めます。予定を過ぎた場合、誰が再照会し、判断方法を見直すかまで置いておくと、待っている仕事が見えます。
公表は、個人情報保護法上の報告や本人通知と同じ義務ではありません。事案に応じた二次被害防止等の必要性と、公表による弊害を検討します。他法令・上場規則・契約上の連絡は別に確認します。[5]
6.調査中でも、最初の問い合わせを受けられるようにする
原因の確定を待たず、今説明できる事実と質問の行き先をそろえます。初動で大きな窓口を完成させる必要はありませんが、通常の代表電話や営業担当に連絡が入ったとき、独自の判断で答えないための案内は必要です。
最初は、承認済みの事案概要、確認中の内容、問い合わせの受付先、個別照会の引継ぎ先を用意します。「私も対象ですか」にその場で答えられない場合は、対象者の確認手順と、会社側で確認する担当を決めます。一般案内だけで身分証等を一律に集めないようにしてください。
本人から進行中の不正利用等の申告が届いた場合は、通常の質問集計とは分けて責任者へつなぎます。申告の受付を、事故との因果関係の結論待ちにしません。具体的な受付方法は二次被害申告の記事を参照してください。
受付時間、記録先、回答権限を設計する段階では、問い合わせ窓口の記事へ進めます。本記事で決めるのは、その準備を始める担当と範囲です。
7.最初の一日を、次の担当へ渡せる状態にする
初動の区切りは「調査が終わった」ではなく、「残る仕事の持ち主が分かる」です。会議の終了時や担当交代時には、何が変わったか、何が未判断か、誰に次の連絡をするかを短く確認します。
図2 引き継ぐのは資料だけでなく、次の仕事
三つを同じ記録に結び付けます。未判明事項は消さず、確認や判断の経過を追記します。
責任者への報告は、問い合わせ件数だけでなく、被害拡大防止の実施状況、調査待ち、対象照合待ち、報告・通知の判断待ち、本人への連絡待ちを分けます。「依頼メール送信済み」ではなく、相手が引き受けたかも確認します。
夜間・休日をまたぐなら、通常の当番だけでなく、緊急時に判断する代替者と連絡方法を残します。安全性が不明な連絡手段をそのまま使わず、使える経路を確認します。担当の疲労や不在も、引継ぎを整える理由になります。
8.初動のチェックと、よくある質問
担当の決まっていない仕事を見つける6項目
- 発見・受領の日時と、確認済み/未確認の内容が分かる。
- 事故対応責任者、各作業担当、不在時の代替者が決まっている。
- 拡大防止と記録の保全を、技術担当・専門家と確認している。
- 報告・本人通知・公表・関係先説明を別に管理している。
- 最初の問い合わせに使う案内と、個別確認先がある。
- 保留事項に次の担当・確認予定・再連絡の相手が付いている。
24時間以内に、調査と通知を終える必要がありますか?
本記事の24時間は着手と担当整理の目安で、法定の完了期限ではありません。必要な対応を24時間待つ意味でもありません。報告・本人通知の要件や時期は別に判断し、調査と準備を並行して進めます。
漏えいかどうか確定してから、責任者へ報告すればよいですか?
確定まで共有を待たず、連絡内容、根拠、未確認事項を区別して伝えます。事案に応じた対応を判断するための社内共有と、漏えいを断定した対外発表は別です。受付だけで判断を抱えないようにします。
担当部署や専門家がまだ決まっていない場合は?
まず社内の責任者と、安全な連絡・記録先を確保します。確認する仕事を分け、社内でできる範囲と専門家へ依頼する範囲を整理します。依頼先が決まるまで、必要な連絡や被害拡大防止を止める扱いにはしません。
小規模な会社でも、図の人数をそろえる必要がありますか?
図は人数ではなく役割の例です。兼務しても構いませんが、判断・実作業・本人への連絡の持ち主を明確にします。社内で不足する仕事を部分的に外部へ依頼する場合も、会社側の判断担当は残します。
初動で目指すのは、分からないことをなくすことではなく、分からないことを確認する仕事が止まらない状態です。被害を広げない対応と、本人へ説明する準備を、担当・記録・次の連絡でつないでください。
初動の状況整理と、本人対応の準備をご相談ください
サンクネットは、事故後の状況整理、問い合わせ窓口、FAQ・回答スクリプト、対応履歴、確認待ち案件の管理、集計・報告などの実務を支援します。原因調査や法的判断を担う専門家と役割を分け、会社側の判断を通知や窓口の仕事へつなぎます。
「調査は始まったが、本人対応の担当と作業が整理できていない」という段階から、分かっている概要とお困りの業務をお知らせください。
企業・団体のご担当者と、顧客・関係先から相談を受けた専門家・支援会社向けです。原因や対象が未確定でも、概要からご相談いただけます。個別事故の対象者確認・被害申告は、その事故の専用窓口へご連絡ください。初回相談に対象者名簿、身分証、認証情報、機密資料は送らないでください。即時対応や受託を保証するものではありません。
相談ナビの利用は任意です。利用せずに直接相談できます。
この記事への質問・今後のテーマ要望を送る記事質問は一般的な疑問・テーマ要望の窓口です。個別事故の相談・緊急対応・被害申告の受付ではありません。
情報漏えい対応支援サービスを見る相談ナビの下書き引継ぎについて
相談ナビで整理した内容は、ご本人が確認して操作した場合に限り、正式相談フォームの概要欄へ一時的な下書きとして引き継げます。内容はフォーム上で編集・削除でき、連絡先や同意等は自動入力されません。ナビを使わず、直接相談することもできます。この操作だけでフォームが自動送信されることはありません。
参考資料・確認範囲
制度・参考資料確認日:2026年10月31日。主に民間企業の一般的な実務を整理しています。法令・公的資料上の制度と、図解・記録方法・文例等の運用提案を区別しています。個別事案の判断は責任者・法務担当者・専門家と確認し、公布と施行を混同せず、公開資料の更新にもご留意ください。
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」:3-5-2、3-5-3、3-5-4:発覚時の対応、報告・本人通知。安全管理は3-4。
- 個人情報保護委員会「「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A」:Q6-4~6、Q6-24:社内報告、拡大防止、調査範囲、報告の起算点。
- IPA「プラクティス7-2 従業員の初動対応の規定」:従業員の初動対応の例と、証拠保全に関する留意点。
- 個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」:報告対象、速報・確報、本人通知の確認先。
- 個人情報保護委員会「Q6-33 漏えい等事案の公表は義務付けられているか」:事案の公表と本人通知の代替措置の区別。
実務支援範囲の参照:サンクネット「情報漏えい対応支援サービス」。記事の運用案や想定例は、特定の実案件・受託実績を示すものではありません。
