SANKUNET サンクネットグループ

情報漏えい対応の現場から|第16回

社員による持ち出し・盗難が疑われたら――調査中に会社は何を言えるのか

執筆:株式会社サンクネット 個人情報漏えい対応支援担当
制度・参考資料確認日:
公開日:

この記事で整理すること

事実を確かめる共有を限定する説明につなぐ
確認・判断・連絡を、本人への回答につなぐ

社員の操作記録や社内からの申告をきっかけに、情報の持ち出しが疑われることがあります。早く被害を止める必要はあっても、記録に残ったアカウントから、操作した人物や故意まで直ちに決まるわけではありません。

疑いの根拠を保全し、確認できた事実、残る疑問、会社として採る措置を分けます。調査権限と担当を定め、被害拡大防止と本人対応を並行させてください。調査対象者への対応と、漏えいした情報の本人への説明は別の仕事です。

最初に押さえる3つのこと

  1. 疑いを、人物の評価にしない証拠と仮説、確認範囲、判断の理由を分けます。
  2. 保全と被害防止を並行する消去・初期化を急がず、業務継続と調査権限も確認します。
  3. 必要な説明を止めない調査中でも、承認した事実と本人への次の案内を用意します。

対象読者:経営、事故対応責任者、情報システム、人事・労務、個人情報管理、法務、広報、問い合わせ窓口の責任者

民間企業で、社員・元社員・委託先担当者等による持ち出しや不正利用が疑われる場面を対象にします。社員が漏えい情報の対象者である場合の社内説明は第11回と分け、ここでは調査と対外説明の接続を扱います。調査の実施権限、処分・損害賠償・刑事手続の適否は、個別の事実と法令・規程・契約を確認して判断します。

手順・図解・記録項目・文例はサンクネットの実務運用案です。法令上の義務、公的な注意・推奨、個別判断とは区別します。文例は特定の企業・人物・事故を再現したものではなく、使用前に自社の事実と承認条件へ合わせてください。

1.疑いの根拠を残し、人物と行為を急いで結び付けない

最初の記録には、「誰が悪いと思うか」ではなく、何を見て疑いが生じたかを書きます。アクセスログ、メールの送信記録、媒体の所在、入退室記録、通報内容は、種類と確認時点を分けて受け取ります。申告は申告として残し、担当者が資料で裏付けた事実と同じ欄に混ぜません。

たとえば大量の出力記録があっても、業務上の処理、共有アカウント、不正利用された認証情報など、確認する余地が残る場合があります。反対に、本人が否定したことだけで調査を終えることもできません。操作の目的、情報の行き先、外部閲覧の有無は別々の論点です。

事務局は、資料の出所、取得日時と時刻帯、対象期間、確認者、分かること、まだ分からないことを結び付けます。「証拠なし」ではなく「この期間のログは未取得」「このシステムでは記録されない」と、調査の限界を残してください。

本人の安全や情報の追加流出が心配なときは、その兆候と必要な措置を責任者へ先に上げます。確証がそろうまで何もしないことと、人物を断定しないことは別です。

2.調査、労務、個人情報管理、説明の責任を分ける

事故対応責任者が、調査する人、措置を承認する人、本人に連絡する人を定めます。同じ人が兼務しても、どの立場で何を判断したかが記録に残る形にします。疑いの対象となる部門の上司だけへ、調査結果の確定まで任せない配慮も必要です。

図1|同じ事故でも、扱う記録と判断の役割は分ける

技術調査

情報システム・専門調査会社が、ログ・端末等の取得範囲と技術的な事実を確認。

労務・法務

人事・法務が、規程、調査権限、聴取、暫定措置、処分の要否を検討。

本人対応・説明

個人情報管理・広報・窓口が、対象情報、通知判断、承認済み回答と再連絡を管理。

三つの担当をつなぐのは、必要範囲へ整理した事実記録です。調査原本や聴取の全文を、窓口全員に配る運用にはしません。会社としての措置は経営・権限者が承認し、事務局は未決事項、確認先、次に判断する時点を追います。

元社員、派遣社員、委託先担当者の場合も、所属だけで自社の人事手続を適用しません。雇用主、端末の所有者、データ管理者、委託契約を確認し、照会先と提供できる情報を法務等が整理します。関係会社への確認が必要でも、全資料を一括で送る必要はありません。

証拠の取得・分析に専門性が必要、被害が進行中、刑事事件が疑われる、調査担当に利益相反がある、といった状況は弁護士・専門調査会社・警察へ早期に相談する判断材料です。相談先へ渡した後も、社内の担当と本人への説明は残ります。[2][7]

3.証拠保全とアクセス制限は、別々に承認して並行する

証拠保全は、関係する記録を後から確認できるよう、状態と取得の経過を守ることです。ログの保存期限を確認し、原本と作業用の写しを区別します。取得者、方法、範囲、保管先、閲覧権限、受け渡しを記録し、必要に応じて専門家が整合性を確認します。

端末の初期化、ファイル消去、メールの削除、アカウント全削除を急ぐと、確認の材料を失うことがあります。一方、流出が続いているのに保全の準備だけを待つのも適切ではありません。技術担当が、被害防止と証拠への影響を比較し、責任者へ実施案を出します。[2]

図2|暫定措置は、処分の結論とは切り離す
疑いを受領:根拠・時点・確認範囲を固定

保全する仕事

消える前の記録を確保
原本・取得経過・閲覧者を管理

拡大を防ぐ仕事

権限・接続・持出し経路を見直す
代替業務・解除条件も承認

調査結果を確認 → 措置を見直す → 承認した範囲で説明

並行する運用例です。証拠の取得完了まで被害防止を待つ、という順序ではありません。

アクセスを一時停止する場合は、対象、理由、承認者、実施者、見直し時点を残します。停止そのものを故意の認定や懲戒と説明しません。支払・顧客対応・管理者作業などの代替担当、引継ぎ、共有認証の扱いも確認し、止めた権限の陰で業務が放置されないようにします。

会社貸与端末でも無制限に調べてよいとは限りません。私物端末、私用メール、私的なクラウドやアカウントは別に扱い、目的、必要性、取得範囲、規程・契約・同意等を法務と確認します。担当者が個人のパスワードを聞き出して、先にログインする運用にはしません。

PPCは従業者モニタリングについて、責任者、目的や規程の周知、運用ルール、点検等を挙げています。これは、調査時に私的通信を自由に閲覧できるという許可ではありません。[3]

4.本人聴取の前に、目的・担当・記録の方法を決める

聴取を始める前に、確認したい論点と資料、質問の順序、同席者、記録方法を決めます。話を聞く担当と記録を取る担当を分ける運用も考えられます。目的や記録の扱いを説明し、回答を急がせず、言い分と客観資料を後で照合できるようにします。

「持ち出しましたね」と結論を示すより、「この操作記録について、業務内容と利用状況を説明できますか」と確認します。回答しなかったこと、記憶が不明確なこと、書面への同意が得られなかったことを、直ちに不正の自認へ置き換えません。威圧や長時間の拘束を前提にした手順にもしてはいけません。

記録は、発言、示した資料、担当者の所見を区別します。訂正や補足が出たときは、元の記録を消して整えるのではなく、誰が何を訂正したかを残します。録音・録画、同席の要否、私物の提出や同意を求める条件は、法令と規程を踏まえて専門家に確認します。

本人の説明を聞く担当と、事故の対象者から問い合わせを受ける窓口は分けます。窓口担当が独自に聴取したり、調査中の社員へ顧客対応を任せて情報を取りに行かせたりしないよう、連絡経路を定めます。

5.通報者・関係社員・調査対象者の情報を広げすぎない

調査への協力を得るための共有と、職場全体への説明は別です。関係者一覧と調査記録を必要な担当に限定し、日次報告では案件IDや役割名を使います。氏名を伏せても、部署・勤務日・役職の組合せで人物が分かる場合は、共有の必要性を見直します。

通報がきっかけなら、情報の出所を確認する目的と、通報者を探し出す行為を混同しません。公益通報に該当する場合は、制度の適用範囲を確認し、利益相反、通報者を特定させる情報の範囲外共有、通報者探索や不利益取扱いの防止を担当部門と点検します。[5][6]

法定の体制整備義務は企業規模等により適用が異なります。常時使用する労働者が300人以下の事業者は法第11条の体制整備等が努力義務となる点と、通報者への配慮が不要という判断は別です。疑いを向けられた人も、未確認の噂で職場から排除されないよう情報共有を管理します。[5]

職場への連絡は、必要な業務変更と相談先を中心にします。「この人物を調べている」と知らせる範囲と、顧客へ事故の概要を伝える範囲を同一にしないことが重要です。

6.調査中でも、対象者への説明と次回連絡を用意する

調査対象者に何を伝えるかと、漏えいした情報の本人に何を伝えるかは、相手も目的も異なります。個人情報管理担当は対象情報・本人への影響と必要な案内を確認し、広報・法務は公表文と窓口回答を照合します。故意の認定を待つ間も、報告・本人通知の要否と時期を判断します。[1]

この文例は、実際に調査・公表・個別受付の体制がある場合に限って使います。単に事象を受領しただけなら「調査しています」と書かず、確認を開始する担当と予定を先に決めます。対象者が取れる具体的な対応が判明していれば、それを曖昧な調査説明より優先して案内します。

窓口は、承認された事実、個別照会の方法、次に案内する予定を答えます。調査対象者の氏名、処分予定、未承認の原因・補償・責任は答えません。氏名を公表しない理由を伝える場合も、「守秘義務があるので何も答えません」で終えず、会社が確認し回答する事項を示します。

回答に使う事実と使用版を記録し、未回答の質問は確認先・引受け・次回連絡を付けて管理します。調査部門への照会文には必要な問いだけを書き、顧客の申告全文や別人の個人情報を無制限に添付しません。

7.未確定・誤認・再発防止を、結論と残務に分ける

調査しても故意や行為者を確定できないことがあります。その場合は、確認できた範囲、使えなかった記録、残る仮説、実施した措置、継続確認の担当を残します。「確定できない」と「疑いが否定された」を同じ終結理由にしません。

誤認が分かったときは、責任者が判断根拠を確認し、誤った情報が届いた範囲への訂正、社内記録の注記、必要な権限や業務への復帰を検討します。名誉や職場環境に関わるため、訂正の知らせ方自体で情報をさらに広げないよう人事・法務と調整します。元の判断経過を隠すための記録消去はしません。

再発防止は監視項目の追加だけで終わらせません。過剰な閲覧権限、情報の持出し承認、共有アカウント、退職・契約終了時の返却と権限廃止、ログの保存、相談しにくい職場環境などを、調査で判明した原因・限界に対応させて見直します。[2]

終了の判断では、人物への手続、情報の回収・流出範囲の調査、行政等への報告、本人への回答を別々に確認します。窓口を縮小しても、未回答と再連絡の担当、証拠の保存・見直し方針、次に新事実が出たときの再開条件を残します。警察や弁護士へ渡したことだけで、すべてを完了にしません。

8.実務チェックと、よくある質問

担当と残る仕事を確かめる6項目

  • 疑いの根拠と確認済み事実を分け、人物や故意を未確認のまま断定していない。
  • 取得・閲覧する資料の権限と範囲、保全方法、担当を確認した。
  • 暫定措置の理由・承認・代替業務・見直し時点を残した。
  • 聴取担当と記録方法を定め、通報者・関係者への共有を限定した。
  • 本人への案内、使用FAQ、未回答、次回連絡が調査担当とつながっている。
  • 誤認時の訂正、再発防止、終了後の残務と記録の扱いを決めた。
会社の端末なら、メールや保存データを自由に調べられますか?

一律には扱えません。目的、必要性、対象範囲、規程・契約・事前の周知等を確認します。私物端末や私的アカウントは別の条件確認が必要です。技術的に閲覧できることと、調査してよいことは区別してください。

持ち出しの疑いがあれば、すぐに解雇できますか?

疑いだけで一律に決めるものではありません。事実、就業規則、手続、措置の相当性等を人事・法務が確認します。被害防止のための暫定措置と、懲戒・解雇の判断は分けます。

対象者への説明で、調査中の社員名を知らせる必要がありますか?

氏名を当然に公開する設計にはしません。対象者が必要とする情報と、調査・プライバシーへの影響を検討し、責任者が承認した範囲で説明します。氏名を出さなくても対象情報や本人が取れる対応の案内は検討できます。

警察へ相談したら、社内調査や本人対応は終了できますか?

相談・捜査と企業の事故対応は別です。専門家や警察との連携条件を確認し、企業が行うべき調査、報告・通知、問い合わせへの回答、再発防止と残務を管理します。確認中の内容は担当と次回連絡を残します。

社内不正の疑いへの対応は、人物を早く決めることではなく、事実を確かめ、権限のある判断と必要な説明をつなぐ仕事です。調査の記録を守りながら、対象者の安全と本人への回答を止めない体制を整えてください。

調査情報を、本人への案内と窓口の運用へつなぎます

サンクネットは、承認済み情報の整理、FAQ・回答スクリプト、電話・メール窓口、確認待ちと再連絡、対応履歴、関係部署への報告を支援します。人物の責任認定、聴取・端末調査の適法性、懲戒や刑事手続は、企業の責任者・弁護士・専門調査会社等の判断と分けます。

必要な仕事や対象範囲を整理しきれていない段階でも、差し支えない概要からお知らせください。

個人情報漏えい対応支援について相談する

企業・団体の担当者、専門家・支援会社向けの相談先です。個別事故の対象者確認・被害申告は、その事故の専用窓口へご連絡ください。初回の相談では、対象者名簿・本人確認書類・事故の原資料・認証情報等を送らず、概要のみをお知らせください。即時対応・受託・補償を保証するものではありません。

何を相談できるか、相談ナビで整理する

相談ナビの利用は任意です。利用せずに直接相談できます。

この記事への質問・今後のテーマ要望を送る

記事質問は一般的な疑問・テーマ要望の窓口です。個別事故の緊急相談や、対象者からの被害申告の受付とは異なります。

情報漏えい対応支援サービスを見る
相談ナビからの下書き引継ぎについて

相談ナビで整理した内容は、ご本人が確認して操作した場合に限り、正式相談フォームの概要欄へ一時的な下書きとして引き継げます。内容はフォーム上で編集・削除でき、連絡先や同意等は自動入力されません。フォームが自動送信されることはなく、ナビを使わず直接相談することもできます。

参考資料・確認範囲

制度・参考資料確認日:2026年11月7日。法令・制度、公的な注意・推奨、当社の実務運用案、個別判断を分けています。図解や管理項目は法定様式ではありません。個別の法務・労務・技術・契約上の判断は、企業の責任者と必要な専門家が確認してください。改正の成立・公布と施行を区別し、実際に対応する時点の公式資料も確認してください。

  1. 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
    2-3、3-4、3-5-1~3-5-4
  2. IPA「組織における内部不正防止ガイドライン 第5版」
    第4章(人的管理・職場環境・事後対策・組織の管理)/本文PDFの4-9、4-10
  3. 個人情報保護委員会「Q5-7 従業者を対象としたモニタリング」
    回答本文(責任者、目的・規程・周知、運用ルール、点検)
  4. 厚生労働省「労働契約法」
    第5条、第15条、第16条
  5. 消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
    令和7年改正/現行(2026年12月1日施行前)の法定指針と解説
  6. 消費者庁「公益通報者保護法第11条に基づく指針(2026年12月1日施行前の現行版)」
    第4(1)②③、(2)①②、(3)/PDF 2~3ページ
  7. 警察庁「サイバー事案に関する相談窓口」
    通報・相談案内